振り飛車といえば美濃囲いでしたが、近年ミレニアム囲いが指されるようになっています。この記事では、四間飛車ミレニアムを紹介します。
ミレニアム囲いとは
ミレニアムはもともと居飛車が採用する囲いでした。第1図が代表例ですが、☗6六歩~☗6七金型など少し違った形も存在します。出始めた頃はトーチカやカマボコなどとも呼ばれていましたが、ミレニアムが定着しました。
ミレニアムは穴熊対藤井システムの全盛期に、三浦九段が使い始めたことにより有名になりました。特徴は端攻めに備えた☗8九玉の形です。後手の角のラインを避けておくことで、第2図のような攻めを緩和させる狙いです。
第2図は藤井システムの成功例で、☗8六角に☖6五歩から☖3三角を生かした攻めがあります。ミレニアムはこの攻めを警戒した囲いです。
四間飛車ミレニアムの狙い
振り飛車には美濃囲いというバランスの取れた囲いがあるため、わざわざミレニアムの形を目指す人はいませんでした。ところが、AIがたまに採用するということで注目される様になりました。
ミレニアムのメリットは、以下の2点です。
- ☖7三桂と跳ねており、玉頭戦が仕掛けやすいこと
- 一段目の玉が玉頭の戦場から遠いこと
少しミレニアムの形は崩れていますが、下記の例が参考になるかと思います。
穴熊対策としては藤井システムが有名ですが、居玉のため急戦を狙われるというデメリットもありました。ミレニアムは、ある程度の玉の堅さを得ながら玉頭戦を狙えるため、今後穴熊対策の一端を担うことになると思われます。
第68期王座戦五番勝負の第一局で、久保九段が永瀬王位に採用しました。タイトル戦にも現れたことで、ますます注目を浴びています。
参考:王座戦中継サイト
四間飛車ミレニアムの評判
四間飛車ミレニアムの局面について、Twitterでアンケートを取っています。
※本記事を公開した現在も回答受付期間なので、まだ回答されていない方はぜひ参加してみてください。
アンケートの結果、約50%の方が第3図からミレニアムを目指そうとしています。
ミレニアムの組み方は、①☖8一玉~☖7二金を急ぐ指し方と、②☖8二銀~☖7一金と形だけ作っておき、状況を見て☖8一玉と入る指し方が見られます。現在は②☖8二銀の指し方が有力視されており、Twitterの人気も☖8二銀が1番でした。
また、ミレニアムは耀龍四間飛車とも相性がよく、居飛車の駒組みを見て選択することができます。耀龍四間飛車は第4図のような形で、先手の堅さに対してバランスと広さで勝負します。
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第3図からは、もちろん美濃囲いも選択できます。ミレニアムの登場により、四間飛車は作戦の選択肢が広がりました。
ソフトでのシミュレーション
四間飛車ミレニアムの将棋をソフトでシミュレーションしてみました。
対局条件
- 使用ソフト:JKishi18gou_m
- 持ち時間:秒読み5秒
- 対局数:第3図から100局
対局結果
第3図の指し手とその勝率を表1にまとめました。
☖8二銀が一番多く指されており、次いで☖8一玉となっていますが、どちらの変化も振り飛車が苦戦する結果になっています。なお、美濃囲いは選択されていませんでした。
第3図で振り飛車が苦戦している理由を見てみましょう。先手が勝率を荒稼ぎしているのは次の変化です。
- ☖8二銀は☗8八銀☖7一金☗8六角(=第5図)
- ☖8一玉は☗8八銀☖8二銀☗8六角(=第6図)
共通しているのは☗8六角が強力な手段になっていることです。第5図、第6の先手勝率は73%、第7図は83%あり、高勝率を誇っています。
☗8六角は、☖8五桂や☖6五歩を緩和させながら☖6四歩をどう受けるのか態度を尋ねています。
☗8六角に対して①☖6三金と受けるのは、第7図のような☗7八飛が狙いです。玉頭で1歩手持ちにして2筋、3筋で再び戦いを起こしていく作戦です。
第7図以下、☖6五歩と動いていましたが、勝率は20%と振るわない結果でした。第7図では☖8四歩が有力だと思うので後述します。
また、☖8一玉型では☗8六角に②☖6五歩も多く指されていましたが、☗同歩☖同銀に☗7七角(=第8図)と進み、この変化は先手が全勝しています…。
第8図はお互いに囲いが中途半端ですが、後手陣の乱れの方が負担になるようです。
対局結果まとめ
第3図では☖8二銀、☖8一玉が指されていましたが、どちらの変化も先手が70%以上の高勝率を叩き出す結果になりました。
AI同士の対局では、後手が思わしくない結果となっていますが、これは第5図、第6図のように☗8六角からの動きが秀逸だったことによりました。
詳しくは次項で述べますが、人間同士の場合は☗8六角は千日手含みの変化が注目されています。AI同士の対局では後手が打開して形勢を損ねていたので、まだ改良の余地はあるのではと思います。
個人的には、第3図で☖8一玉☗8八銀に☖7二金と囲いを完成させる指し方が出現しなかったのは少し意外でした。
振り飛車の対抗策/最前線の変化
AI同士の対局では振り飛車が思わしくないように見えますが、実際はとても難しいと思います。個人的には、第7図で☖8四歩(=第9図)を考えてみたいです。
これは、☗7五歩☖同歩☗同飛に☖8五桂(=第10図)と跳ねる土台を作った意味です。
第10図は☖9五歩☗同歩☖9七歩が生じて後手も相当やれると思います。
したがって、第9図では☗3八飛や☗2八飛などで局面を微妙に変化させながら仕掛けを模索することになります。この変化は千日手もつきまとうので、後手番の作戦としても選びやすいのではと思います。
実は、先日の王座戦で、久保九段も類似形で☖8四歩を選択され、千日手模様になりました。この千日手を含む微妙な攻防が、現在最先端で研究されています。
参考:王座戦中継サイト
また、他の駒組みにも可能性はあると思います。例えば、第3図から次の変化も有力です。
- ☖8一玉☗8八銀☖7二金(=第11図)
- ☖6二金寄(=第12図)
②☖6二金寄は駒の連結を重視した指し方です。☗8六角問題には☖6三銀で対処できます。
まだ未知の分野だけに可能性のある変化が多く残っています!
まとめ
AI同士の対局では苦戦している様子もありますが、四間飛車ミレニアムはトッププロも採用する有力な作戦です。具体的には、以下のメリットがあります。
- 作戦の幅が豊富で、美濃囲いや耀龍四間飛車にシフトできる
- ☖7三桂型で玉頭戦に有利な玉の配置
- 居飛車側も的を絞りづらく対策しづらい
まだ未知の分野のため、これから試行錯誤されて精度が上がってくるでしょう。当面は、☗8六角問題をどうクリアするかが課題となると思います。
参考書籍
振り飛車ミレニアムは村田六段の書籍で勉強するのが良いでしょう。耀龍四間飛車も覚えておくと、作戦の幅が広がると思います。
また、アマチュアの方が年内に四間飛車ミレニアムの本を出版するようです。近年ではアマチュアでもプロレベルの研究を披露される方が多いので、出版されたら参考にするとよいかもしれません。