ノーマル三間飛車に対するいきなり早仕掛けをまとめてみました。
いきなり早仕掛けとは
いきなり早仕掛けとは、ノーマル三間飛車に対して第1図のように最速の仕掛けを狙った急戦です。
この戦法は『いきなり早仕掛け』の他、『超急戦』や『加部流』などの呼び名がありますが、本記事では将棋世界2010年11月号の付録でつけられた『いきなり早仕掛け』と呼ぶことにします。
☖6二玉の瞬間に仕掛けているのがポイントで、角を交換して☗6五角を狙っています。
定跡手順の概要
いきなり早仕掛けはプロの実戦がほとんど無く、定跡が整備されていませんが、よく知られている手順を紹介します。
第1図から、後手の指し手は次の2つが候補です。
- ☖4五同歩
- ☖4三銀
第1図から☖4五同歩
<第1図以下の指し手①>
☖4五同歩 ☗3三角成
☖同 銀 ☗6五角
(=第2図)
☖4五同歩と取ると第2図までは一直線に進みます。☗6五角では☗4三角もありそうですが、変化図1のように☖2二飛とかわされる変化が生じます。
変化図1の先手は馬作りに成功していますが、後手も「1歩得+手持ちの角」という主張があるので、第2図のように単に☗6五角の方がわかりやすいでしょう。
<第2図以下の指し手>
☖7二玉 ☗3二角成
☖同 金 ☗4一飛
(=第3図)
☖7二玉と寄れば第3図へと進みます。以下、☖2二金☗4五飛成☖5四角☗7五龍☖2七角(=第4図)が一例です。第4図は、後手も馬を作っていい勝負だと思います。
また、先手としては第2図で☖4四角☗7七桂☖7四歩(=第5図)は想定しておかなければなりません。この変化も非常にいい勝負だと思います。
☖4五同歩の変化は、お互いの主張がぶつかり激しい展開になりやすいです。
第1図から☖4三銀
☖4五同歩の変化が激しくなりやすかった一方で、☖4三銀(=第6図)はどちらかというと穏便な手です。
第6図以下、先手が☗6八玉と囲いに入れば、後手も☖4二飛~☖7二玉と歩調を合わせて一局の将棋です。
ただし、先手は四間飛車の☗4五歩早仕掛け定跡に誘導できそうで、得意な形を集約できるメリットがあります。このため、(実際の形勢はともかく)☖4二飛が「利かされている」と感じる方は☖4三銀は選びづらいのではと思います。
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※後手は☖3二金型の四間飛車に組んで4筋の逆襲が楽しみでもあり、利かされたかどうかの判断は個人差があります。
<第6図以下の指し手>
☗4四歩 ☖同 銀
☗4五歩 ☖5五銀
(=第7図)
第6図から先手が動くとすれば、第7図のように仕掛けていくことになりますが、これは無理筋です。第7図で☗2四歩☖同歩☗5六歩☖同銀☗3三角成☖同桂☗2四飛は☖3五角の王手飛車があります。
定跡まとめ
いきなり早仕掛けは定跡と呼ばれるほど整備された指し方がないかもしれませんが、結果をまとめると下記のようになります。
- ☗4五歩に☖同歩は真っ向勝負。先手は龍、後手は馬を作り合う展開になります。
- ☗4五歩に☖4三銀は比較的穏やかな展開になります。
有名局の勝率
局面ペディアで第1図の局面を検索してみましたが、有名局で該当したのは1局のみでした。
しかし、最近女流棋戦で第1図が現れました。第13期マイナビ女子オープン5番勝負第3局、☗加藤女流三段vs.☖西山女王戦です。(詳細は下記のリンクをご覧ください。)
この対局は難しいところもあったものの先手が勝ち、いきなり早仕掛けが一躍有名になりました。ただ、採用した加藤女流三段は前例までは知らなかったようです。
ノーマル三間飛車が流行している現環境では、これを機にいきなり早仕掛けが流行るかもしれません。
みんなの形勢判断
この仕掛について、Twitterでアンケートを取ってみました。
第1図の形勢は先手、後手持ちの回答がほぼ同数でした。また、☖4五同歩と☖4三銀の人気もほぼ同等です。
結論が出ていない仕掛けの難しさが垣間見えます。
ソフトでのシュミレーション
第1図から☖4五同歩、☖4三銀の変化をそれぞれ100局ソフトに指してもらいました。
対局条件
- 使用ソフト:水匠2
- 持ち時間:秒読み5秒
- 対局数:☖4五同歩、☖4三銀の局面を各100局
対局結果
対局の結果は表1の通りです。勝数、負数、勝率は全て先手から見ての数字です。合計が200局になっていないのは千日手の指し直しをしていないためです。
先手が勝ち越していますが、後手番ということを考えれば☖4五同歩の変化は頑張っている印象です。それぞれの変化がどのように指されているか簡単にまとめておきます。
☖4三銀の変化
☖4三銀の変化は、予想されていたとおり比較的穏やかに進んでいます。代表例は第8図のような形で、出現率は100局中61局でした。
第8図はいい勝負だと思いますが、先手勝率が65%もあります。ここから先手、後手の方針としては、
- 先手は☗7八玉や☗5八金右などの自然な手が多いです。
- ☗3七桂~☗4六歩で☗4五桂を含みにする指し方が多く見られました。
- 後手は☖3二金と上がる展開がほとんど。
- 囲いは☖6二銀からの早囲いで、美濃囲いは採用されていませんでした。
この方針に則ると第9図のような形になりますが、先手の方が玉が堅いのが生きているように思いました。後手も悪いようには見えませんが、勝率は押されてしまっています。
美濃囲いが1局も採用されていませんでしたが、評価値を大きく損ねそうにはありませんでした。人間としては、美濃囲いで堅さを重視する指し方も有力そうです。
☖4五同歩の変化
☖4五同歩の変化は、☗3三角成☖同銀☗6五角(=第2図)と進みます。☗6五角では☗4三角も指されていましたが、☖2二飛(=変化図1)とかわすと先手勝率24%でした。
第2図は☖7二玉が41局、☖7二銀が6局指されていましたが、合計で先手の勝率は77%と驚異の数字を叩き出していました。表1では☖4五同歩の変化は頑張っているように見えましたが、これは変化図2の勝率に引っ張られてのものでした。
なお、この変化は第4図と第10図へ進行しています。違いは☖2二金と☖2二銀の違いで、基本方針は同じです。第4図、第10図は合計で41局出現し、先手勝率80%でした。
人間の目線ではここまで大差になるようには見えませんが、間違えづらいソフトのシビアな面が出ているものと思います。
まとめ
ソフトの対局結果のまとめです。
- 第1図で☖4五同歩は先手の勝率が非常に高く、80%ありました。
- ただし、先手も楽に勝てるという雰囲気ではありません。
- 第1図で☖4三銀も先手勝率65%と高勝率でした。
- ☖4三銀の変化は、後手は早囲いからバランス重視の駒組みを採用していました。
三間飛車党にとって厳しい結果となってしましましたが、一直線で負けになる将棋ではないので人間同士の対局ではここまでの差にならないと思います。
いきなり早仕掛けの結論
- 人間同士では難しい戦いですが、ソフト同士だと先手が高勝率でした。
- 後手としては、☖4三銀型の方が手が広いので戦いやすいと思います。
- 先手も楽に勝てる雰囲気はなく、中盤のねじり合いを制する必要があります。
ソフトの勝率は高いですが、人間がまとめきるのは難しい将棋のようにも思います。少なくとも人間の勝負では、先手は十分な研究をしているはずなので、後手も方針や対策を検討しておく必要があります。